今回は安川加寿子訳編の「ピアノのテクニック」を紐解いていきます。
前編では内容を詳しく見ていきます。

「ピアノのテクニック」安川加寿子訳編
「メトードローズ」の著者であるエルネスト・ヴァン・ド・ヴェルドによって書かれたピアノのテクニックの教本です。
フランス語の原題は「Le déliateur」。辞書にはない造語のようです。
フランスでは1926年に出版されています。
日本ではメトードローズと同じく安川加寿子さんの訳編で、1952年に出版されました。
どのようなテキストなのでしょうか?
まず巻頭の訳者による「はしがき」をヒントに紐解いていきます。
練習方法
はしがきによると、「ショパンのシステム」によって勉強することを勧めています。
「ショパンのシステム」とは何かというと、以下のように書かれています。
すなわちこれは、スタッカートの弾き方です。
(略)ショパンは、スタッカートの練習はピアノの初歩者には一番大事なことだと言っております。
「ピアノのテクニック」p.2
スタッカートの練習を重視したシステムだということです。
目的
そしてこの練習曲の目的は以下の通りです。
- 手の重さをなくすること。
- 全部の指の強さを同じにすること。4と5の指の弱さをなくすること。
- 左手を右手と同じように巧みに弾けるようにすること。
それぞれの指と左右の手を、同じように強く、巧みにすることが目的です。
レガート
スタッカートの練習は疲労を伴う場合があるので、レガートの勉強を加えてこれを交互に用いるようにしてあります。
レガートの練習は、
- 柔軟さ
- 円滑さ
- 音の美しさ
を得ることができます。
次に項目ごとに内容を見ていきます。
目次
レガート-スタッカート<ショパンーヴァン・ド・ヴェルドのシステム>
ここで3つの練習の方法を学びます。
- レガートーマルカート…1つづつの鍵盤が深く底まで届くように。
- スタッカート…フォルテは鋭く突く。ピアノは手首の軽い運動で。
- レガーティシモ…指を鍵盤に近づけて指が滑っていくように。
指をほぐす練習(その1)各々の指を柔軟に自由に使えるために
8分音符からなる1小節の短い音型を繰り返しながら上行下行していく練習曲が、58曲あります。
これらを、前の項目で学んだ3つの方法で3回ずつ練習します。
各曲には3〜4つのリズムやアーティキュレーションの変奏があります。
指をほぐす練習(その2)
16分音符からなる短い音型を繰り返す練習曲が15曲、12/8拍子の曲が5曲あります。
リズムの練習
付点のリズムや8分音符と16分音符のを組み合わせたリズムからなる12曲、
6/8、9/8 、12/8拍子などの複合拍子のリズム練習曲が7曲、
シンコペーションの練習曲が4曲、
全23曲です。
指の関節の練習
2音のフレーズの練習を各指で、2つのリズムで練習します。
練習(ショパンーヴァン・ド・ヴェルドのシステム)
長い指(2、3、4)を黒鍵に、短い指(1、5)を白鍵におくポジションを練習し、応用します。全15曲。
練習<指をほぐして、トリルを準備する練習>
隣り合った音を連続して繰り返し弾く練習です。
1曲を7つのリズムとアーティキュレーションで練習します。
繋留音
1番や5番の指を押さえたまま他の指を動かし、全ての指の独立を目指します。全12曲。
練習<親指を通過するための>
1番の指が他の指の下をくぐる「指くぐり」や、1番の指の上を他の指が超える「指ごえ」のための練習です。全8曲。
次の音階への練習につながります。
長音階・短音階
24調の練習をします。
両手で同じ音で練習した後、左右で3度、10度、6度、離れた練習をします。
短音階は和声的短音階のみです。
音階のいろいろの型
反進行、シンコペーション、様々なリズムの練習、急速な練習を、全調で練習します。
半音階
3番の指で黒鍵を弾く練習です。
リズム練習、オクターブで両手で練習した後、短10度、短3度、長6度、反進行の練習をします。
アルペジオ
指使いごとに4つの調に分類して分散和音を練習します。
その後、減七、属七の分散和音の練習をします。
連続音(同音連打)
同じ音を素早く違う指で弾く練習です。全11曲。
二重音とレガート(3度、6度)
3度の和音をレガートで弾く練習を10曲、
6度の和音を4曲弾きます。
オクターブ
片手でオクターブを弾く練習です。
同じ音を繰り返すものから、音階をひくものまで、8曲です。
スタッカートの重音
片手で3度、6度、オクターブの和音をスタッカートで弾く練習を10曲。
終止和音
様々なカデンツァの形を全調で練習します。
アルペジオ練習の追補
展開形の指使いを全調で練習します。
以上、「ピアノのテクニック」の内容を見ていきました。
後編では、こちらのテキストのポイントを紹介していきます。



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