ここでは初心者でも演奏できる多くの魅力的なピアノ作品を残している作曲家ギロックによる、ピアノ導入のメインテキストをご紹介します。
全5冊のおすすめポイントと各巻の詳しい内容をひもといていきます。
- 1. ポイント1:無駄のないワークブック形式の学習
- 2. ポイント2:全調メソッド
- 3. ポイント3:理論と技術を一歩ずつ身につける
- 4. ポイント4:ギロックの曲で学ぶ
- 5. こんな人におすすめ
- 6. 詳しい内容は?
- 6.1. レベル1A「楽譜を読むまえに」
- 6.1.1. ユニット1
- 6.1.2. ユニット2
- 6.1.3. ユニット3
- 6.1.4. ユニット4
- 6.1.5. ユニット5
- 6.2. レベル1B「はじめての楽譜と鍵盤」
- 6.2.1. ユニット1
- 6.2.2. ユニット2
- 6.2.3. ユニット3
- 6.2.4. ユニット4
- 6.3. レベル2
- 6.3.1. 理論
- 6.3.2. テクニック
- 6.3.3. 解釈
- 6.3.4. 耳のトレーニング
- 6.4. レベル3
- 6.4.1. 理論
- 6.4.2. テクニック
- 6.4.3. 解釈
- 6.5. レベル4
- 6.5.1. 理論
- 6.5.2. テクニック
- 6.5.3. 解釈
- 7. このテキストに足りないところ
- 8. テキスト概要
ポイント1:無駄のないワークブック形式の学習
イラストがなく、文章と図解による説明が多めです。
一つずつの曲に学ぶことがはっきりしていて無駄がなく、目的がしぼられています。
レベル2までは各曲に練習プランがあり、リズム打ちをしたり、小節数を数えたり、ただ弾くだけではなくまず楽譜を眺めることで、1曲から無駄なく多くのことを学びます。
書き込むことも多く、ワークブックのような形になっています。
繰り返し練習による定着などはなく無駄なく5巻にギッシリと内容が凝縮されています。
ポイント2:全調メソッド
全調メソッドとは、導入期に24全ての調を順序立てて取り入れる方法です。
ト音記号やヘ音記号の横に#や♭が6、7個つく調まで無理なく弾いていくメソッドです。
例えば、導入テキストとして有名な「バイエルピアノ教本」では、1巻ではほとんど調の変化はありません。
後半になって#4つ、♭2つまで数曲でてきますが、多くの曲をハ長調で弾きます。その影響かバイエルで育った人は#や♭がつくと難しいと感じるというように言われています。
全調メソッドでは、早い段階から手の場所(ポジション)と鍵盤の場所をきっかけとして、いろんな調を学んでいきます。
そうすることで、#や♭が多い曲への抵抗が減り、いろんな響きの曲を体験することができます。
ポイント3:理論と技術を一歩ずつ身につける
ギロックがピアノメソードを書いた大きな柱として「理論と技術を一歩ずつ身につける」ということを挙げています。
理論も技術も漏れなく、細かいステップを経て着実に進めていきます。
難しいことに急に飛躍したり、同じ内容を何度も無駄に繰り返すということがありません。
また説明がないままに新しいことが出てきたりということもありません。
文章や図解によって、一歩ずつ理解しながら進むことができるようになっています。
ポイント4:ギロックの曲で学ぶ
学ぶ曲がギロックが作曲したものがほとんどで、とても魅力的です。
響きが変化に富んでいて親しみやすいものばかりです。
ギロックがピアノメソードを書いた大きな柱として
「“弾いてみたい”と思わせる音楽性の深い作品と取り組む→感性を育てる」
ということを挙げているように、練習曲どの曲も味わい深く、何度も弾きたくなるものばかりです。
豊かな響と、弾きやすさの両方を合わせています。
ちなみにテキストを5冊並べるとカラフルできれいです。
1Aから順に下のカラーが減っています。デザインにもこだわりを感じます。
こんな人におすすめ
- ギロックの曲が好きな人
- 理論も技術も抜かりなくしっかり築きたい人
- イラストなど視覚的な刺激は必要ない人
- 昔ピアノをやっていたけれど、理論の勉強も一緒にやり直したいという人
- 無駄なことはやりたくない大人のビギナーの人
続いて、詳しい内容を見ていきましょう。
詳しい内容は?
アメリカの作曲家・ピアノ教育家のウィリアム・ギロックによるピアノをはじめる時の導入テキストです。
ウィリアム・ギロックについては、曲集を紹介したこちら↓の記事で触れているので、ご覧ください。
そのギロックによる音楽教育の集大成がこの「ピアノ・オール・ザ・ウェイ」です。
それぞれの巻が4〜6のユニットに分かれていてそこで学ぶ大切なことがはじめに挙げられています。
また曲ごとに「練習プラン」が書かれていてそれに沿って学びます。
それぞれにチェック項目があり、理解できているかどうかによって教師や親がチェックをしていきます。
訳者でもある安田裕子さんの「個性と感性を大切に」という解説によると、ギロックは
「音楽教育で一番大切な時期は初めて音楽を学ぶ生徒や初心者を導く時である」
「ギロック・ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ!1A」個性と感性を大切に
と提唱していたと言います。
また、訳者の安田裕子さんは、
音楽は初歩の時点で積み木を1つ1つ積み重ねていくように学んでいくと必ず高く大きく豊かに育ち最良の結果が生まれます。
のろのろと進むかめのように感じられるかもしれませんが、この時期だからこそ作ることのできる基礎を一歩一歩しっかりと築き上げていきたいものです。
「ギロック・ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ!1A」個性と感性を大切に
という形でこのテキストを紹介しています。
基礎を大切にしていることがギロックと訳者の言葉から伺えます。
実際にはどういった内容なのでしょうか。
レベル1A「楽譜を読むまえに」
「楽譜を読むまえに」と副題がついています。
この段階では、音符の名前はまだ覚えません。
音符の上下と、鍵盤上の動きに慣れていきます。
ギロックによる「はじめに」にこの巻で学ぶことがまとめられています。
(前略)
リズム感(拍の取り方)、鍵盤の並び方、耳のトレーニングの他に、以下の読譜に関する事柄を学びます。
①読譜
②四分音符、二分音符、付点二分音符、全音符を使ったリズムパターン
③テンポと表情記号
④スラーとレガート
⑤指の番号
「ギロック ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ レベル1A」はじめに
音符の音を読まずに読譜を進めていくのというのはどういったなのでしょうか?
順番に見ていきます。
- 黒鍵を場所を理解する。
- 棒の向きで左右どちらの手を使うか見分ける。
- 四分音符、二分音符の長さを数えてリズム打ちや演奏をする。
- 指番号を覚える。
- 少しずつ白鍵も弾く。
- 鍵盤の場所の名前(ドレミ)を覚える。
また、楽譜を読むことにつながる流れは、次の手順です。
- 指番号で弾きながら音符の高さの関係に慣れる。
- 「鍵盤の真ん中」という中央ドの加線が書かれる。
- 五線が登場する。
- 五線があると音が上がっていること、下がっていることがわかりやすくなる
- 楽譜をよく見る
- リピート音(同じ音)を探す
- 一番低い音、高い音はどれですか?
- 線が通っている音符はいくつありますか?(せんの音符)
- 線と線の間の音符はいくつありますか?(かんの音符)
- ステップ(隣の音)、スキップ(1つ飛ばしの音)をみる。
- 書いたり弾いたりして「線の音」「間の音」と、ステップ、スキップ、リピートの関係を定着させる。
これらのことが5つのユニットにまとめられています。
各ユニットの内容は次の通りです。
ユニット1
鍵盤、音符
右手と左手
正確な拍
高い音低い音
四分音符、二分音符
譜尾の向き
ユニット2
指の番号
フレーズ、レガート、スラー
鍵盤の中央の音
ユニット3
白鍵、音名
ユニット4
白鍵上のステップ、スキップ、リピート
ユニット5
線の音、間の音
付点二分音符、全音符
レベル1B「はじめての楽譜と鍵盤」
副題の通り、ここではじめて楽譜を読むことが始まり、音符と鍵盤をつなげます。
ギロックによる「はじめに」レベル1Bの内容がまとめらています。
音符を読み鍵盤の位置を理解して
ピアノが弾けるように編集しました
音符を読むことに加えて
既にレベル1Aで学習した
鍵盤上での<上がる>、<下がる>の方向と
音程(ステップ、スキップ)やリピートを復習したのち
さらに強化しながら新しいことを学びます
「ピアノ・オール・ザ・ウェイ」レベル1Bは
初めてピアノに出会う初歩の生徒の読譜トレーニングの教材として
大いに役立つことでしょう
「ギロック ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ レベル1B」はじめに
1Aで覚えた「上がる」「下がる」「スキップ」「ステップ」「リピート」を強化しながら、新しいことを学びます。
覚えるカギとなる音符としてドレミ、ドシラ、「2つのソ」、「3つのド」が挙げられています。
これらの音符をもとにして、「ステップ」「スキップ」で周りの音符を覚えていきます。
ギロックの言う「読譜のトレーニング」として使うことができます。
また拍子記号の覚え方がユニークで丁寧です。
リズム打ちと、言葉を読んで、何拍子に感じるかということを演奏をする前に考えます。
感じたことから記号に続けていきます。
以下の4つのユニットで構成されています。
ユニット1
鍵盤の復習、指の番号、音名ABCDEFG
ユニット2
ト音記号とヘ音記号の鍵盤の位置関係
中央C音
スキップとステップの復習
拍子記号・・・何分の何拍子→ビートの基本
ユニット3
2つのG音とC音
ユニット4
3つのC音
付点二分音符、全音符
レベル2
レベル2ではさらに楽譜を読むことに慣れていきます。
ギロックによって書かれた「はじめに」に学ぶことが書かれています。
楽譜を読むことと、基本的なピアノ奏法に加えて
・拍子・ダンスビート
・13の長音階
・トニックとドミナント7th
・長調と短調
これらのことを視覚と聴覚方学びます。
「ギロック ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ レベル2」はじめに
最初に中央のドから5つずつ(ドレミファソ、ドシラソファ)の音符を示されていますが、それ以降音符が何の音かということは書かれません。スキップ・ステップを手掛かりに音符に慣れていきます。
ここで初めて登場するのがコード(和音)です。
和音を抑える形(白鍵、黒鍵の数)で4つに分類して、13全ての長調の主和音を覚えます。
主和音を覚えた後に、
両手でつなげて、鍵盤の図を見ながら音階を弾きます。
主和音と属七の和音も覚えます。
そのほか、シャープ#とフラット♭など楽譜のルールもここで覚えます。
巻頭にある「レベル2で学ぶこと」には以下のように書かれています。
理論
- 小節線と小節
- 楽譜と鍵盤の関係
調について
音域表示GからG - 四分音符を一拍に数える拍子記号2/4、3/4、4/4、4/6
- 鍵盤と楽譜上の長調と短調
- 移調
- 臨時記号:シャープ(#)、フラット(♭)、ナチュラル
- 拍子の中での音符と休符の長さの数え方
- 13の長調音階とそのⅠ(トニック)とⅤ7(ドミナント7th)のコード
- リピート、1カッコ、2カッコの終わり方、Da capo(ダ・カーポ)、Fine(フィーネ)
- 長2度からオクターブ8度までの音程
- 四分音符を一拍に数える拍子での八分音符のリズムパターン
- タイとオクターブ表記
テクニック
- スタッカート、アクセント、ポリタートタッチ
- ノンレガートとレガートのペダリング
- 音階とアルペジオ(分散和音)のなめらか奏法
解釈
- テンポと表情記号
- 強弱記号、クレッシェンド、デクレシェンド
- フェルマータ
耳のトレーニング
- 長調と短調の三和音の聴き取り
- 鍵盤上での高低音域
レベル3
ここでは登場する音域がさらに広がります。
より広範囲の音符を、5個のドと、4個のソというキーとなるものを覚えることで獲得します。
音符のカードを鍵盤の上に並べる方法で音符を覚えていきます。
そのために、テキストの最後のページには、切り離して使えるカードがついています。
また、レベル2では両手でつなげて弾いていた音階を片手で弾くようになります。
そして全ての長調と短調を学びます。
巻頭にある「レベル3で学ぶこと」には以下のように書かれています。
理論
- 読譜の音域をひろげる
- 音を早く読む練習
- 四分音符を一拍に数えるときの付点四分音符の長さ
- すべての長調と単調とその記号
- 臨時記号
- 四分音符を一拍に数えるときの三連ぷのリズムパターン
- 装飾音符
- シンコペーション
テクニック
- 6度、7度、オクターブの音程を弾く
- 音階を弾くときの指使い
- 3度音程のなめらか奏法
- ソフトペダル
- スフォルツァンドとアクセントのタッチ
解釈
- テンポと表情記号の拡充
- メロディと伴奏のバランス
- いろいろな形式とムード
レベル4
ギロックピアノメソードの仕上げでもあるレベル4。
前巻で楽譜のルールをほぼ学んでいるので、ここではより深く、音楽の仕組みについて学んでいきます。
声部や、主要三和音、16分音符のリズムパターンなどを曲を演奏しながら学んでいきます。
巻頭にある「レベル4で学ぶこと」には以下のように書かれています。
理論
- 声部
- 和音の転回
- トニック(主和音)サブドミナント(下属和音)ドミナント(属和音)
- プラガル・カデンツ、正格カデンツ、完全カデンツ
- 四分音符を一拍に数えるときの複合拍子
テクニック
- 声部の歌い方
- 和音の転回
- メロディーとアクセントペダル
- 半音階の指使い
- 速度
解釈
- 声部
- 間のとり方
- いろいろなスタイル
以上が全5巻の内容です。
盛りだくさんの内容が、ギッシリ5冊に詰まっています。
このテキストに足りないところ
- イラストがなくカラフルではないので、小さい子の目を引くつくりはされていない。
- 文章が多いので、幼児が自宅で一人で使用するのは難しいかも。
- 少しずつ進んでいくが無駄なくスリムな作りで、ドリルのように同じことを何度も繰り返し定着することは想定されていない。
- 繰り返して定着させたい場合には、他のテキストなどを併用することおすすめ。
テキスト概要
- 「ギロック・ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ!」 1A、1B、2、3、4
- 全音出版社
- 1969年出版(日本は2002年)
- 著者:ウィリアム L. ギロック
- 訳・解説:安田裕子
- レベル:導入〜初級レベル
楽しいピアノライフを!
執筆者
ピアノ講師・ピアノ演奏家のピアノレッスンズ。
自宅教室で指導の傍ら演奏活動を行う。
「自分で奏る喜びをたくさんの人に」をテーマにwebサイト「ピアノ・レッスンズ」を運営。
中高教員免許(音楽)取得。
チャイルドカウンセラー取得。
“「ギロック・ピアノメソード ピアノ・オール・ザ・ウェイ!」を紹介【子ども導入教本#19】” に対して2件のコメントがあります。
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