今回はグレン・マック著の「誰でもできるピアノ即興演奏 インプロヴィゼーションの冒険」を紹介します。
ピアノ即興演奏のアイディア集のようなこちらのテキスト。
どのようなテキストでしょうか?
おすすめポイントと、詳しい内容を見ていきます!
- 1. ポイント1:即興演奏の視点で音楽を分解していく
- 2. ポイント2:即興的な取り組み方を身につける
- 3. ポイント3:リトミックや音楽遊びの先生に
- 4. このテキストに足りないところ
- 5. こんな人におすすめ
- 6. 詳しい内容は?
- 6.1. 想定されているシチュエーション
- 6.2. 対象者と活用方法
- 6.3. 即興演奏で気をつけること
- 6.4. レッスン1:白鍵の上の即興演奏
- 6.5. レッスン2:白鍵と黒鍵を使った即興演奏
- 6.5.1. 音階を中心とした構成
- 6.5.2. 音程を中心とした構成
- 6.5.3. 和音を中心とした構成
- 6.5.4. その他の構成方法
- 6.6. レッスン3:積み木のように作りましょう
- 6.7. レッスン4:旋律の和声付け
- 6.8. レッスン5:ダンス・リズムの即興演奏
- 6.9. レッスン6:リズム運動とダンスのための即興演奏
- 6.10. レッスン7:音の効果
- 7. テキスト概要
ポイント1:即興演奏の視点で音楽を分解していく
楽譜を頼りに演奏してきたピアノ奏者にとって、即興演奏が意のままにできるようになるのは途方もなく遠い道のりのように感じます。
このテキストは、即興演奏ができるようになるということを目標に、音楽の構造を分解して紐解いていくように構成されています。
音楽の基本的な素材を使い、それらを理解しながら即興演奏を意義ある想像的な一つ一つの冒険にしていく本です。
ピアノは鍵盤を沈めれば音がなるので、ピアノの前に座り音を鳴らせばすぐに即興演奏になります。
それを「意義ある想像的」な形にしていくために音楽を構成する要素をアイディアとして一つずつ実践していきます。
解説されている中身は音楽理論が中心です。
音楽理論をどのように即興演奏に繋げるかという目的で学び、実践していきます。
ポイント2:即興的な取り組み方を身につける
もっとも大事だと思われるのは、音の聞き方、ピアノへ向かう態度です。
冒頭の「即興演奏で気をつけること」をよく読んで、楽譜を読んで演奏する時とは違う取り組み方を実践することで効果が得られます。
即興演奏で気をつけることをまとめると以下の8つです。
- 常に耳でひくこと
- 聞いた曲を真似して弾いてみる
- 怖がらずに簡単な曲を一音ずつ鍵盤の上で弾いてみる
- 作曲はしない(作曲と即興演奏の技法をまぜこぜにしない)
- 即興しているときは、止まったり、弾き直したり、音を全部覚えたり、失敗を気にしたりしない
- 気に入った素材でも同じものを何度も繰り返さない
- 何をさておき、常に先に進む
- 学ぼうとせずに自分の機知(考え)を信じる
ピアノの前に座った時にいつものように演奏をすることから脱し、即興演奏につながるピアノとの向かい方を身につけていきます。
60ページと薄いテキストですが非常に濃い内容です。
ポイント3:リトミックや音楽遊びの先生に
具体的には、特に子どもの音楽指導の場面で役に立つ情報があります。
レッスン5と6では、そのような場面を想定して体の動きと関係した即興の例題が掲載されています。
このテキストに足りないところ
- タイトルに「誰でも」と書いてあるが、テキストの内容は楽譜を読めることと、ピアノをある程度弾けることが前提。導入や初級者向けに書かれてはいない。
こんな人におすすめ
- 楽譜を見て演奏をしてきたけれど、即興演奏にも興味がある人
- リトミックの先生
- 幼稚園や小学校で音楽を指導する立場の人
詳しい内容は?
こちらのテキストは1970年にアメリカで出版され、日本語版は1994年に出版されました。
訳者はアメリカのピアノ教本を多数翻訳出版しているピアニストの中村菊子さんです。
まずはじめに冒頭の「はしがき」に書かれていることをまとめます。
想定されているシチュエーション
はしがきによると、即興演奏が必要とされている場面として想定しているのは3つです。
- 教会で会衆が入ってくる時に賛美歌を即興演奏しているオルガニスト
- 明け方の2時にコーラスも入れて弾かなければならないジャズ・グループのピアニスト
- とても速い7拍子に合わせて“走ったり、転んだり”を踊るダンス・クラスの伴奏者
それぞれのニーズに合った即興演奏を行なうための基礎的内容になっています。
対象者と活用方法
- 音楽教室の生徒‥音楽について知り、音楽を作り、音楽を聴く助けとなる。すでに学んだ音楽をさらに理解するための架け橋となる。
- 初心者‥自分自身の音楽を作り、ピアノの音楽を探求し、他の生徒とデュエットを弾き、そして、セオリーの要素を学ぶことができる。
- 上級者‥自分の音楽の楽しみのために、また音楽の素材にいっそう親しむために、1人でこの本を勉強することができる。
- ダンスの伴奏者‥この本を通して自分が即興しなければならないリズム、曲の性格、ムードの表現に役立つ素材を見出すことができる。
- 幼稚園や小学校の先生‥子供達の活動に音楽を使うときの助けとなるたくさんのアイディアを見つけることができる。
即興演奏で気をつけること
「はしがき」に続くページの「即興演奏で気をつけること」であげられている事をまとめます。
気をつけることは以下の5つです。
- 常に耳で弾くこと。
- 作曲はしない(作曲と即興を混ぜこぜにしない)。
- 即興しているときは、止まったり、弾き直したり、同じものを繰り返したりせずに、常に先に進む。
- 即興演奏を“学ぼう”としない。自分の機知を信じる。
- 良いアイディアはメモをとる。
続く内容は7つのレッスンで構成されています。
- レッスン1で「最も簡単で可能な鍵盤と想像力の使い方」を学ぶ。
- レッスン2〜7で「新しいアイディア」を学ぶ。
色々な基本的アイディアを単独に、または組み合わせて使うことができます。
ここで学ぶ「それらのアイディアは、想像力を駆使し、勉強し、実践するあなたの出発点」となります。
次に各レッスンの内容を詳しく見ていきます。
レッスン1:白鍵の上の即興演奏
ここでは、簡単な5指の手のポジションで即興をします。
以下の4つの段階があります。
- 右手で白鍵で5本の指を動かさずに即興します。
- 両手で同じように「5指のポジション」で即興します。
- 右手は旋律、左手は伴奏をつけます。
- ポジションを曲の途中で移動します。
レッスン2:白鍵と黒鍵を使った即興演奏
ここからは、即興演奏をする上で土台となるアイディアを学びます。
例として書かれた即興演奏の曲を弾きそれぞれの要素を学びます。
各アイディアは以下の通りです。
音階を中心とした構成
- レッスン1で行った5本の指の即興に#や♭を入れて黒鍵を使った即興。
- ハ長調の全音半音の関係を見て、ほかの音から始まる長調を作り長音階を学びます。
- 旋法(モード)。
- 全音半音に収まらないものとして、黒鍵のみで弾く5音音階と、全音音階。
- 全音と半音を交互に使った8音階。
- 12の半音からなる半音音階。
- ブルー・ノートの音階。
音程を中心とした構成
- 長短を学びます。
- 2、5、7度の音程を使った即興。
- 3、6度の音程を使った即興。
和音を中心とした構成
- ある調性や旋法内の3度から作られた和音
- 調性にとらわれず、一種類(長三和音の基本形)だけを使う即興
- 4取れ構成された和音を使う即興
- クラスター
- 決まったパターンを使う(ブルースやブギウギ)
その他の構成方法
- 模倣
- 広げられた5指の型
- 音域を広げたオスティナート
- 下行音型
- 音階のすべての音を協和音として使う。
- 持続される旋律
- モノフォニー・ポリフォニー・平行音程
- 音域や和音の配置
- 協和音と不協和音
- 既存の曲のアイディアを借りる
レッスン3:積み木のように作りましょう
ここでは、レッスン2で学んだアイディアの組み合わせ方を学びます。
- モチーフ
- フレーズ
- 楽節(2つのフレーズが合わさって)
レッスン4:旋律の和声付け
ここでは、右手で弾く旋律に合った、左手の伴奏和音の付け方を学びます。
レッスン5:ダンス・リズムの即興演奏
ここでは、決まったリズムのパターンを学びます。
- ワルツ
- ラテン・アメリカとスペインの踊り(コンガ、ビギン、タンゴ)
レッスン6:リズム運動とダンスのための即興演奏
伴奏の例として以下の7つの例の楽譜をあげています。
- ストレッチ
- バウンス(はずむ)
- ウォーク(楽しく・幽霊のように・向きをかえる)
- スキップとギャロップ
- ランニング(かけ足)
- プリエ
- ジャンプ(ホップも含む)
レッスン7:音の効果
鍵盤を弾く普通の演奏法以外の、ピアノの内側で作る音を使った方法を紹介します。
以上、内容を詳しく見てきました。
楽しいピアノライフを!
テキスト概要
- 「誰でもできるピアノの即興演奏 インプロヴィゼーションの冒険」
- 著者:グレン・マック Glenn Mack
- 訳・解説:中村菊子・渡辺寿恵子
- 1970年出版(英語版)、1994年日本語版初版
- 全音楽譜出版
- 併用テキストなし
執筆者
ピアノ講師・ピアノ演奏家のピアノレッスンズ。
自宅教室で指導の傍ら演奏活動を行う。
「自分で奏る喜びをたくさんの人に」をテーマにwebサイト「ピアノ・レッスンズ」を運営。
中高教員免許(音楽)取得。
チャイルドカウンセラー取得。