1985年にフィンランドで出版された、他のどの教本にも似ていないユニークな導入書です。
全4巻(音楽の旅立ち・1〜3)で、フィンランドの民謡やわらべ歌や、著者の曲で構成されています。
こちらのテキストのポイントを3つ紹介します!
「スオミ・ピアノ・スクール」音楽への旅立ち・1・2・3
「スオミ」とはフィンランドの意味です。
フィンランドのピアノ教育者3人によるフィンランドのピアノ教育のために作られたテキストです。
そのため、フィンランドの民謡や、わらべうたが多く入っています。
その他にも、ロシアやデンマークの民謡も。
日本語訳版には、日本のわらべうたも収録されています。
ポイント1:ピアノで創造力、想像力を育む!
はじめのうちは、楽譜を読まずに、絵を見たり先生のリードで即興で音を楽しみます。
音符を読むことにこだわらず、ピアノと仲良くなることに重きが置かれています。
しばらくいろいろな形でピアノの音を鳴らして遊び、そのあと音符を覚えます。
「スオミ・ピアノ・スクール 音楽への旅立ち」P.12,13
即興のページは度々登場します。
絵や物語に合わせて、クラスター(手のひらやグーで鍵盤をおさえる)や、グリッサンド(手のひらや指で鍵盤の上を滑らせる)、フラジオレット(鍵盤をおさえたままにして、弦を響かせる)など、自由な演奏方法や発想でピアノを楽しみます。
ポイント2:音符の登場も、収録曲もユニーク!
新しい音符の登場もまた独特です。
真ん中の音から一音ずつ増やしていく・・・・というよくある形ではありません。
ト音記号とヘ音記号を手がかりに、まずヘ音記号のミ〜ト音記号のラの11個の音符を、図を見て、書いて、覚えます。
そこで片手ずつ演奏した後、15曲めには2オクターブの音を覚え、両手で弾きはじめます。
その後は、使われる音符は少しずつ増えていきますが、2冊目の真ん中で4オクターブの鍵盤と楽譜の図が登場するまで、特に説明はありません。
音符を読んで弾くことを少しずつ身につけていくという立場のテキストとはちょっと違います。
また収録されている曲は、前に述べたように、フィンランドのわらべうたや民謡が多くあります。
他にも、フィンランドでは子どもに馴染みがあると思われるロシアやアイルランド、デンマーク、イスラエル、チェコスロバキアの民謡のメロディが使われています。
原著者によると、西洋の作曲家の多くの曲集で紹介されている曲は意欲的に避けているとのことです。
また、フィンランドの現代作曲家に依頼した作品も数曲あります。
テキスト全体を通して、響もリズムもとてもユニークです。
ポイント3:ピアノの音色や演奏方法について細やか
ピアノのさまざまな音色を引き出し、またそれを感じるための演奏方法についてたくさん盛り込まれています。
テキストの一番はじめでは弾く姿勢や、手についても細やかにイラストと言葉で説明します。
音符を覚える前から、レガート(なめらかな音の繋がり)の指の使い方をピアノのふたや、鍵盤で体験します。
また、両手で弾きはじめたばかりの時に、手首を使ったフレーズやスタッカートの弾き方を練習します。
「うでの力をぬきましょう」というページではピアノを弾く姿勢で腕を脱力する方法を順を追って体験できるようになっています。先生が手伝うように書かれていますが、大人の方は一人でもできます。
「いろいろなタッチをよくききましょう」というページでは、猫のイラストと一緒に鍵盤を撫でたり、木琴のように鳴らしたり、画鋲を押し込むように鍵盤を押して、タッチによる音の違いを感じます。
この教本に足りないところ
- おんぷを読んで弾くことに慣れる段階が少ない。(譜読みに慣れたい人は簡単なテキストを併用するといいと思う。)
- レッスンで先生に習うことが前提で、独学用に作られていない。とは言っても大人の方は巻末にある「解説(先生方へ)」を読みながらやることは可能。
- 音階、調号は順番に進むカリキュラムでは特に解説がなく、2冊目にあたる「スオミ・ピアノ・スクール 1」のテキストの最後に登場する。解説によると、教える時期について先生が自由に計画できるようにとのこと。
- 途中で登場するフラジオレットは電子ピアノだと体験できない。
こんな人におすすめ
- フィンランドが好きな人
- フィンランドの文化が好きな人
- 北欧の民謡やわらべうたに興味がある人
- フィンランドの音楽文化に興味がある人
- ピアノの演奏方法や音色を重視して学びたい人
- 昔習っていて音符は少し読めるけれど、新しいことを楽しみながら学びたい人
教本概要
- 「スオミ・ピアノ・スクール」(原語:Suomalainen Pianokoulu)
- 著者:リトヴァ・レヒテラ/アニヤ・サーリ/エーヴァ・サルマント-ネウヴォネン(Ritva lehtela/Anja Saari/Eeva Sarmanto-Neuvonen)
- 監修:舘野泉
- 訳・編:坂井百合子 久保春代
- 出版年:1985年(日本語訳1996年)
- 併用テキスト:なし
- レベル:「音楽への旅立ち」・・・導入から初級、1巻・・・初級、2巻・・・中級
1巻を終えるとブルグミュラーに入れます - 曲数:初級を終えるまでに134曲(音楽への旅立ち・・・76曲、1巻・・・58曲)
楽しいピアノライフを!
執筆者
ピアノ講師・ピアノ演奏家のピアノレッスンズ。
自宅教室で指導の傍ら演奏活動を行う。
「自分で奏る喜びをたくさんの人に」をテーマにwebサイト「ピアノ・レッスンズ」を運営。
中高教員免許(音楽)取得。
チャイルドカウンセラー取得。
“導入教本紹介「スオミ・ピアノ・スクール 音楽への旅立ち、1〜3」【子ども向け編#10】” に対して3件のコメントがあります。